「あんた、帰っといで。」
そう涙ながらに母に言われたが、僕は断った。
喧嘩で気まずいこともそうだが、それ以上に、弱り果てた父を見るのが怖かったのだ。
南草津駅で降り、改札を抜け、そこからは歩いて実家を目指した。畑に囲まれた街で、曲がり角に立てられた子供の形した看板が、どこか懐かしかった。
玄関の前に立ち、自分の家にもかかわらず、インターホンを押した。応答はなく、もう一度押すと、「はーい。」と懐かしい声が聞こえてきた。
玄関のドアがガラガラと開いた。母だった。
「あー、帰ってきたんね。」
「うん。」
母に促され、僕はスーツケースを持って中に入った。



