派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 ほう、近所の子か、と言った渚は、
「これからどっか行くのか」
と未来を見て訊いてくる。

「そう。
 友達と呑みに」

 渚は、一万円を未来に渡し、
「そうか。
 おばさんによろしくな」
と言った。

 未来はそのお金をちゃっかり受け取り、
「じゃ、おばさんには、蓮は身許も確かな、素敵な人と付き合ってるみたいだって言っとくよ」
と笑う。

「そうか。
 ありがとな」
と渚が手を挙げる。

 じゃあねー、と未来はご機嫌で帰っていった。

 さすが、社長様……。
 買収早いですね。

 っていうか、あんな簡単に丸め込まれる密偵でいいのだろうか。

 あいつ、私の貞操も簡単に売りそうだな、と思いながら、見送った。

「入っていいか」
と渚が聞いてくる。

 ドアノブを握ったまま、一瞬、まよったが、結局、
「……どうぞ」
と言った。

 また隣のご主人に帰ってこられても困る。