「終わった。
帰る」
キーボードを打つ手を止めたと思ったら、立ち上がり、そんなことを言い出す渚に、
「早いですね、今日は」
と脇田は苦笑いした。
うん、とだけ言って、渚は帰り支度を始める。
今日は、いつもより、早めに仕事を回しているように見えた。
蓮に会いに行くのかな、とぼんやり思う。
まあ、渚が女性のために予定を変えることなど、今までなかったことだが。
「じゃあな、亨。
そこまで一緒に出るか」
と言ってくるので、
「いえ、まだ用事がありますので」
と言うと、うん、と言って、渚は行きかけ、戻ってきた。
「もう仕事終わってんだから、敬語じゃなくていいんだぞ」
わざわざそんなこと言いに戻ってきたのか、と苦笑しながらも、
「まだ私は仕事中なんです。
お気をつけてお帰りください、社長」
とわざといつもより丁寧に言ってやると、笑っていた。
仕事の時間の方が長いので、最近、プライペートでも渚に敬語を使ってしまうことが増えた。



