派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 はい……としょんぼり返事をしながら、自分のデスクに戻る。

「すごいじゃない。
 秘書に移動なんですって?

 きっと貴女の頑張りが認められたのね」
と隣の席のやさしいおばさまが微笑みかけてくださる。

 いえ……此処に来て、二週間ちょい。

 まだ、なにも頑張ってません、と思いながらも、素直に喜んでくださるおばさまのために、
「ありがとうございます」
と頭を下げた。

「短い間でしたが、お世話になりました」
と言いながら、なんだか嫁に行くみたいだな、と思ってしまった。

 ちらと振り返ると、エレベーターホールの前で、まだ渚は本部長と話している。

 ……もっと早くにそういう姿を見せてくれていたら、ただの、やさぐれて高飛車な社員だとか思わなかったんですけどね、と恨みがましく思っていた。