「凄いじゃないの、蓮。
社長夫人よ」
と帰りの車、何故か真知子が浮かれていた。
「いや、それはないと思います」
彼女と後部座席に並んで座る蓮は、きっぱりとそう言った。
「なんで?」
「だって、子供を産んでくれって言われただけで、結婚してくれって言われてないんです」
そうだ、あの男。
なにか足りないと思っていたら、結婚してくれ、もないし、付き合ってくれ、もない。
いきなり子供を産んでくれとはどういうことだ。
「でも、気に入らない女にそんなこと言わないでしょ」
と真知子は言うが。
うーん、と運転中の奏汰は唸り、
「社長は確かにワンマンだけど。
そんないい加減な人じゃないよ。
よく話を聞いてみたら?」
と言ってきた。
まあ、聞いてみたいのはやまやまだが。
渚が突拍子もないことを言い出して、こちらが逃げてしまったり、向こうが忙しそうだったりで、なかなか話が進まないからな、と思っていた。



