派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「おい」
と振り向いた渚がこちらに向かい、呼びかけたらしく、真知子たちが、びくりとする。

 ひょい、と観葉植物の向こうから顔を出して、渚が言った。

「蓮子、ちょっと来い」

 奏汰たちが慌てて立ち上がり、頭を下げていた。

 二人に頷いて応えた渚は蓮の背中に気安く手を置き、さっきの紳士の許に連れていく。

「高坂さん、秋津蓮子です」

 おい……。

「一応、これが私の子供を産んでくれる予定なんですけどね」

 ははは、このお嬢さんが、と高坂が笑った。

 なにか二人の間では通じ合っているらしい。

「では、この方が未来の奥様ですか」
と高坂が言ったとき、それだよっ、と蓮は思った。

 この男、なにか一言足りないと思ったらっ、と思った瞬間、高坂が笑顔で言ってきた。

「おめでとうございます。
 お幸せに」

「……ありがとうございます」

 取引先かなにかの人のようだったので、渚の顔を潰してはと思い、作り笑顔で応じた。

「もう戻っていいぞ」
と言われ、

 上から物を言うな~っ。
 この社長様め~っ、と思いながらも、

「失礼します」
と頭を下げ、その場を去った。

 だが、高坂に背を向けたときには笑顔はなかった。

 ふたつばかり言いたいことがある。