派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 



 化粧を少し直して、外に出ると、見知った顔があった。

 思わず、開けかけたドアを閉めようとしたが、止められる。

「女子トイレですよっ」
と思わず叫んだが、相変わらず、渚は、なにもかもお構いなしだ。

 ガッシリと女子トイレの小洒落た木製のドアを掴んでいる。

「蓮子、ちょうどよかった。
 今日、お前の家に行くからな」

 はい?

「予告しとかないと、なんだかんだと文句言うだろう」
と言ってくるが、いや、予告して来ても文句は言いますけどね、と思っていた。

「でも、うちに来るって。
 渚さん、住所、知らないですよね?」
と言うと、

「大丈夫だ。
 ちょっとした犯罪を犯して、手に入れた」
と言ってくる。

 どんな犯罪~!? と思ったとき、渚はトイレのある細い通路からレストラン内を見、軽く頭を下げた。

「蓮子、お前も頭を下げろ」
と言ってくる。

 もう私の名前、蓮子のような気がしてきたな……と思いながら、仕方なく、言われるがままに、誰にだかわからないが頭を下げる。