派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 



 真知子が行きたいと言ったのは、最近リニューアルしたという店だった。

 奏汰は来たことあったようなのだが、違うメニューも食べてみたかったからいい、と言っていた。

 蔦の這う煉瓦造りのその店は、夜は高いお店のようなのだが、改装してからは、リーズナブルなランチも出すようになったようだった。

「ええっ。
 あんた、あんな大きな会社に居たの?

 ビールかけてやめるとか莫迦じゃない?」

 ……莫迦ですとも。

 叫ぶ真知子の言葉に、蓮はおのれの立場を再確認し、ブルーになる。

「親元を離れて自立するつもりが、トホホな感じになってますよ」
とグラスで水を飲みながら、メインの肉料理を見つめ、

「でも、このメニューなら、やっぱ、ワインですよね」
と呟くと、

「呑みなさいよ。
 顔に出なくて、酒臭くならない自信があるんなら」
と言ってくる。

 いや、あるわけないじゃないですか、と思う。

 奏汰と真知子が話し出したので、少し気を利かせて、トイレに立ってみた。