派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 



 十二時少し前、
「ほら、急いでっ」
と真知子に急かされながら、廊下に出たとき、ちょうど、エレベーターの前で奏汰と出くわした。

「あ、石井さん」
と言うと、

「今日は外?
 早いじゃない、十二時より」
と奏汰は笑う。

「そうだ。
 これからランチに行くんですけど、石井さんも一緒にどうですか?」

 勝手に奏汰を誘うと、横に居た真知子がええっ、と声を上げた。

「おっ、いいねえ。
 じゃあ、僕が車出してあげるよ。

 ちょっと待てる? 鍵取ってくるけど」
と奏汰が言うと、あれだけ急げと言っていた真知子が、

「はいっ」
と言った。

 奏汰の姿が消えたあとで、真知子が肩を叩いてくる。

「でかしたっ、蓮っ」
 あ、蓮になってる、と笑った。

「えーっ。
 でもでも、どうしようっ。

 楽しみにしてたランチなのに、きっと喉通らないわ」
と落ち着かなげに言う真知子を可愛いなと思い、眺める。