徳田が気づいているのはわかっていた。

 あのとき、
『お目覚めでございますか。
 秋津蓮様』

 そう彼女は言った。

 あの頃、渚はまだ自分のことを『蓮子』だと思っていたようなのに。

 だから、大事なお坊っちゃまの周りをウロウロしている虫が何者なのか、即行調べたのではないかと思っていたのだが。

 その後も、渚の態度が変わることはなかったし、家のことについて、訊いてくることもなかったから。

 徳田が渚に話さないとも思えないが、どうなってるんだろうな、と思っていたのだ。

 そんな早くから知っていたのか、と溜息をついたが、蓮の頭をつかみ、自分の方に引き寄せた渚は言った。

「お前が金持ちでも、貧乏人でも借金抱えてても関係ない」

 渚さん、と見上げると、
「お前が幼女でも、妹でも……」
と余計な付け足しが始まる。

 ヤバイよ、この人、と思って膝の上で見ていると、
「なにが悪い。
 お前一筋だって話だ」
と言う。

 そんな渚の胸に頭を寄せて、蓮は言った。

「私は貴方とは、住む世界が似すぎてて駄目かと思ってました」