派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 



 社長室から出た脇田は、いつものように笑って葉子と話している蓮の顔を見る。

 驚くなよってなんだろうな、と思いながら。

 それにしても、さっきの渚の顔は面白かった、と思う。

 昔から、人を振り回すのが得意で、振り回されることなどなかった男が、蓮のことで悩んでいるのが、なんだか可愛らしくもあり、可笑しくもあり。

 そういえば、昨日、誰かにつけられてるようなことを言ってたな、と蓮を窺う。

 渚にはそのことを相談しているのだろうかな、と思った。

 どうも、石井奏汰との間にもトラブルがあるようだが、それも告げていないようなのに。

 蓮は、カラッとしているようで、意外に秘密主義だ。

 そういうところが、彼女をミステリアスに見せているのかもしれないが。

「なんなんですか、脇田さん。
 蓮ちゃんをじっと見ちゃって。

 いやらしー」
と葉子がこちらを見て言い出す。

「考え事してたんだよ。
 そういうのなら、もっとそっと見るよ」
と言うと、なんですか、それ、と笑っていた。

「まあ、それはそれとして、秋津さん、ちょっと」
と手招きをすると、私ですか? という顔をして、蓮が来た。