派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「気が散るんです」
と言うと、どんな言われようだ、と言うが。

 いや、まだキスされて平気なほど、恋人同士として、馴染んでいないというか。

 ちらと後ろの渚を見、
「そんなことされると、渚さんのことしか考えられなくなるからです」
と少し赤くなって本当のところを言うと、ちょっと嬉しそうに笑って真後ろから抱き締めてくる。

 なんかいいなあ、と思っていた。

 此処ではなにも構えたり、気を使ったりしなくていいし。

 この人とずっと二人で居られたら、幸せな気がする、と思って、でもなあ、と思う。

「やっぱりやめてください」
と渚の顎を突いて押し返した。

「あの、あんまりキスとかしたら、飽きませんか?」

 渚を振り返り言った。

「お前は飽きるのか?」

「いや……そんなにはしたことないので、わからないですけど」
とうっかり言うと、そんなにはしたことないって誰としたんだ、という顔をされてしまう。

「い、いや、渚さんとはですよ」
とフォローを入れたが、かえって変な感じになってしまった。

 渚以外とはたくさんしたことがあるみたいではないか。

 もちろん、そんなことはないのだが。