派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「好きと愛してるじゃ、好きの方が軽い感じがするだろ」

 偏見だ……と思ったが、
「お前もそう思ってるから、好きなら軽く言えたんだろ」
と渚は言う。

 まあ、そうかもしれないが。

「もういいじゃないですか」

 このままだと無理やり言わされそうだ、と恥ずかしさから視線を逸らして出て行こうとすると、渚は溜息をつき、
「こんな強情な女の何処がいいんだろうな、脇田は」
と言い出した。

 いや、貴方が言いますか……。

 っていうか、脇田さん、別に私をいいとか言ってないし。

 そんなことを考えながら、ノブに手をかけた瞬間、もう書類に目を落としているらしい渚が、
「一般的に言ったら、浦島の方がいい女だと思うんだけどな」
と不思議そうに呟くのが聞こえてきた。

「……失礼します」
と静かに言い、そっと扉を開けて閉める。

「あら、蓮ちゃん、どうだった?」
と笑いかけてきた葉子に向かい、いきなり、

「浦島さんっ、呪いますーっ!」
と叫んだ。

 ええっ? なにっ!? と葉子は叫ぶ。

「なんだかわかんないけど、巻き込まないでーっ」

 何処へ行ったのか、脇田の姿はもうなかった。