派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 後ろから顔を覗き込み、
「言わないのか。
 渚さんの側に居られなくなって寂しいですとか」
と言ってくる。

「そっ、そんな恥ずかしいこと言えませんっ」

「なにを照れることがあるんだ。
 恋人同士なのに」

「……恋人同士なんですかね?」

 ちょっと疑問に思って訊くと、
「お前、あそこまでしておいて、恋人じゃないとか。
 どんな淫乱女だ」
と渚は呆れたように言う。

「いや、だって……っ」

 なんだか、なし崩し的に、こうなった感があって、はっきり付き合うとか付き合わないとか、そういうあれでもなかったような、と思っていると、渚が言った。

「だって、よく考えたら、此処にお前を置いておいたら、俺より、脇田と居る時間の方が長いんだよ」

 まあ、それはそうですけど。

 だから、それがなにか? と思っていると、
「脇田を切るわけにはいかないから、お前を切るしかないよな」
とあっさり言ってくる。

「……簡単に切られるとか、派遣社員の宿命ですね」
と呟くと、

「派遣社員関係ないだろ。
 浦島でも脇田の邪魔になるなら、秘書から出すぞ」
と渚は言う。