派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 わああああああっと思う。

 たぶん、エレベーターホールを出たところから、なんだかんだ自分たちが揉めているのが見えていて、どうやって通ったもんかな、と迷った挙句に、挨拶して来られたのだろう。

 気を遣わせて、申し訳ないっ、と思いながら、
「こっ、こんばんはですっ」
と明らかに動転している挨拶を返す。

 渚は平然と、蓮を離さないまま、笑顔で挨拶していたが。

 パタン、とお隣のドアが閉まり、ただいまーという声が微かに聞こえた。

「ははははは……」
「なに笑ってんだ」

 ちがーうっ、と蓮は腰に回った渚の手をはたく。

「は、離してくださいよっ。
 こういうときはっ」

「なに言ってんだ。
 仲がいいのは、いいことじゃないか。

 外国じゃこんなの当たり前だぞ」
と睨んできた。

「あれっ?
 やっぱり、留学とかしてたんですか?」
と訊くと、

「いや、日本から一歩も出たことはない」
と言う。

 ……相変わらずだな。