派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 わああああっ。
 ほんとにこの人はっ。

 なんでこんなに行動早いんだっ。

 意味わかんないしっ。

 愛してるとか、そんなこと言えるわけないじゃないですかっ、と思いながら、渚が出ていったドアを勢いよく開けると、ゴンッと音がした。

 見ると、渚は魚眼レンズから見えない位置にしゃがんでいた。

 渚は恨みがましく、こちらを見上げ、しゃがんだまま、まだ、
「言え」
と言ってくる。

 もしかして、この人でも不安になったりするのだろうかな、とふと思う。

 徳田は、女は言葉を欲しがる生き物だと言っていたようだが、男だって、同じなのかもしれない。

 そう考えると、ちょっと可愛らしくもあるな。

 蓮はノブを握ったまま、渚を見下ろし、言った。

「……好きですよ、渚さん」

 一瞬、黙ってこちらを見つめた渚は、立ち上がり、蓮を抱き寄せた。

 そうか。
 愛してるとか言いにくいけど、好きなら言えるな、と戻ってきた渚の匂いに安堵していると、隣のご主人が、
「……こんばんは」
と照れたように微笑み、横を通って行った。