派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 




「おはようございます、社長。
 あら、どうされたんですか?」

 葉子の言葉に背後を見た蓮は、慌てて前に向き直る。

 まだ渚の下唇は少し腫れていた。

「蓮に蹴られて、口を切ったんだ」

「まあ、蓮ちゃん」
と葉子が怒り出す。

「駄目じゃないの。
 社長は顔も売りなんだからっ」

 なんのですか。
 誰にですか、と思ったが、まあ、言いたいところのことはわかる。

 交渉の場などに、この顔で出るのは、ちょっと、ということだろう。

 幸い、今日はそんな用事はないのだが。

「いえ、あのですね。
 昨夜は私もひどい目に遭ったんですよ」

 まあ、なんの証拠も残らぬことばかりだが。

「あら、どんな話?」
と葉子がわくわくして訊いてくるが。

 いえ……浦島さんが期待してるような話じゃないですけどね、と思う。