感染しているかもしれない生徒と接触をする。


それは森本先生にとっては殺されるかもしれない、ということを意味にしているのだ。


それなのに、森本先生は躊躇なく階段を下りはじめる。


「……先生は、怖くないんですか?」


2階まで下りてきた時、あたしはそう聞いた。


「怖いわよ。だからバッドを持っている愛莉ちゃんについて来てもらったんでしょ?」


森本先生はそう言い、おどけたようにほほ笑んで見せた。


「でも、保健室にいくのに躊躇いはないんですか?」


「それは……ないと言えば嘘になる。だけどね、あそこにはあなたたち以外の生徒がいる。もし感染していなかったら、あの子たちはきっと怖くて震えてるわ。お腹を空かせているかもしれない」


感染していなかったら?


そんな事考えてもいなかった。


文芸部の男子生徒が自分から拘束されることを望んだ時、感染は確実だと思い込んでしまっていた。


「そうですよね……」


あたしは森本先生の考えに感心して頷いた。


「愛莉ちゃんは一応これをつけておいてね」


保健室に近づく前に森本先生がポケットからマスクを取り出してくれた。


万が一に備えて空気感染を防ぐためだ。


希望を捨てずにいる反面、しっかりと感染予防の事も考えている。


さすが森本先生だと思う。