「俺、そろそろ帰りてぇんだけど」


アラタ先輩がだるそうな声でそう言った。


周囲が少しだけざわめく。


職員室や保健室の様子を見ていない生徒たちから不満の声が漏れ始めた。


「おい、やめろよ」


そう言ったのは祐矢先輩だった。


眼鏡を指先で押し上げながらアラタ先輩へ近づいていく。


祐矢先輩に声をかけられた瞬間、アラタ先輩の表情が硬くなった。


「こんなことまでして演出なワケないだろうが」


祐矢先輩は鼻で笑うようにそう言った。


「なんだと？」


「状況をよく見て見ろよ。シャッターは上がらない、先生たちは必死で物資を運ばせている。これらが全部演技だとすれば、僕は辻本先生に主演男優賞を送るよ」


祐矢先輩はそう言い、大げさに拍手をして見せた。


それをみたアラタ先輩の顔がみるみる内に赤く染まる。


ヤバイ！


そう思った次の瞬間だった、


アラタ先輩の拳が祐矢先輩の頬にあたっていた。


パンッと肌を打つ音が体育館の中に響き渡る。