渋田さんの自殺にリアリティが出て来たのは、登校したB組の中がその話題でもちきりだったからだ。


「あの渋田さんが?」


「自殺って、なんで?」


「学校では仲良かったよね。家庭環境とか?」


そんな声がさざ波のように聞こえて来る。


人が自殺していると言う事でみんな静かだけれど、口を開けばその話題が出て来るようだ。


みんなの様子を見ながら教室後方にある席に座った。


あたしの前の席に空音が座り、小さく息を吐き出すのがわかった。


いつもと違う雰囲気の教室に緊張している様子だ。


あたしだってそうだ。


いつもは教室に入るとすぐに友達のところへ向かうけれど、今日はそれができなかった。


みんな席に座り、隣や前後の席の子と小声で会話をしている程度だった。


自分たちの知っている人が死ぬということが、日常生活に大きな影響を出している。


席に座ってしばらくたつと、担任の先生が教室に入って来た。


辻本功(ツジモト コウ)先生。


30代でルックスがいい事から生徒からの人気があった。


辻本先生は教卓の前に立つと軽く咳払いをした。


いつもは入ってきてすぐに元気な声で「おはよう!」と挨拶するのだが、今日はその挨拶もなしだ。


みんな静かに辻本先生の言葉を待っている。


辻本先生は小さな咳払いを繰り返し、ようやく言葉を切りだした。


「みんなのところにも、今朝連絡網が行ったと思う」