その夜、アラタ先輩と祐矢先輩の2人が戻ってくることはなかった。


辻本先生は途中で2人を見失ってしまい、1人で音楽室へと戻ってきていた。


「2人は大丈夫ですか?」


森本先生のその問いかけにも、辻本先生は答えられないままだった。


どこにいるのかわからないのだ。


安全な場所を見つけられていればいいけれど、アラタ先輩があんな状態じゃそれもできていないかもしれない。


幻覚や幻聴といった症状が弱まらなければ、しっかしりと逃げる事もできないだろう。


それは最悪の事態を意味していた。


「心配だけど、仕方がないですよ」


あたしは小さな声でそう言った。


あんなに沢山いた生徒が、今は空音とあたしの2人だけなってしまっている。


「辻本先生までいなくなったら、あたしは悲しいです」


そう言うと、自然と涙があふれていた。


空音は田井先生に自分の気持ちを伝えた。


ここで死んでしまうかもしれないという事をちゃんと考えての行動だったに違いない。


それなら、あたしも辻本先生にちゃんと伝えたかった。


「あたしは、辻本先生のことが好きです」