アラタ先輩の笑い声が途絶えたのは、それから数十分後のことだった。


突然ピタリと止まったかと思うと、今度はキョロキョロと周囲を見回し始めたのだ。


「誰か俺の事呼んだか?」


誰も呼んでいないのにそんなことを言っては周囲を探す。


完全な幻聴症状だった。


それを見ていた祐矢先輩が時々「誰も呼んでない」と、返事をする。


するとしばらくは大人しくなるのだけれど、少し時間がたてばまた同じように周囲を見回した。


「常習犯ね」


その様子を見て森本先生がそう言った。


「そうなんですか?」


あたしはそう聞いた。


「えぇ。人にもよるけれど、ここまで幻覚や幻聴が起こるのは、初めてじゃないからだと思うわ」


アラタ先輩は一体いつから薬物に手を染めていたのだろうか。


一度やるとやめたくてもやめられなくなる。


自分から底なし沼に足を踏み入れるようなものだ。


「なぁ、おい、誰だよ俺を殺そうとしてるのは」


アラタ先輩はそう言い、怯えたように周囲を見回す。


「誰もお前のことなんて殺そうとしてない。ほら、水を飲めって」


祐矢先輩は呆れたようにそう言い、アラタ先輩に水を渡そうとする。


少しでも尿と一緒に出してしまった方がいいという考えなんだろう。