「2階の放送室は隔離された空間だった。外への空気の出入りも少ない。ウイルスは体育館に蔓延することなく、長時間あの部屋に止まっていた。


それが、俺たちが隔離されたドアを開けたことで、途端にウイルスが蔓延し始めたのかもしれない」


祐矢先輩がわかりやすく説明してくれる。


「で、でも、それじゃ発症までにまだ時間があるんじゃないですか?」


そう言ったのは空音だった。


「いや、俺が今言ったのは1つの仮説でしかない。もしかしたらウイルスは形を変えて、より簡単に感染するようになっていたり、発症までの時間が短くなっている可能性もある」


祐矢先輩の言葉に全員が黙り込んでしまった。


こんな短期間にウイルスが形を変える事なんてあるんだろうか?


現実世界ではとうてい考えられない事だった。


だけど、こうして子供たちだけに感染するウイルスが現に存在ているのだ。


自殺と他殺を誘発する史上最悪のウイルス。


短期間で形を変え、より狂暴になっていても不思議ではないのかもしれない。


「あたしたち、生きて出られるの……?」


空音が目に涙を浮かべてそう言った。


あたしは空音の手を強く握りしめる。


『大丈夫だよ』


そう言って安心させてあげたかったけれど、不安で喉がつかえて言葉が出て来なかったのだった……。