「嘘だろ」


横からそう言ったのはアラタ先輩だった。


その言葉にあたしは「どうしてしそんな事言うんですか?」と、聞いた。


「よく思い出してみろよ。体育館にはロープで拘束したままのアイツが残ってるんだ。辻本先生はアイツを助けに行くんだろ?」


アラタ先輩の言葉にあたしは目を見開いた。


今朝の騒動ですっかり忘れてしまっていたけれど、確かに倉庫に拘束したままの男子生徒がいる。


「じゃ、じゃぁ、拘束をといてあげて連れてくればいいじゃないですか」


あたしは慌ててそう言った。


「そう言うわけにはいかない。今朝の騒動はアイツのところまで聞こえていたハズだ。そこで1人取り残されてしまったアイツはきっと錯乱状態だろうな。


感染者の死体が見付かった体育館に取り残されたって思い込んでいるかもしれない。ここに連れて来れば、きっと俺たちが攻撃される」


祐矢先輩が静かな声でそう言った。


「そうかもしれないけど……じゃぁ、どうするんですか?」


辻本先生へ向けてあたしはそう聞いた。


辻本先生は困ったように唸り声をあげ、頭をかいた。


「連れて来るわけにはいかないし、1人でほっとくわけにもいかない」


辻本先生はそう言い、ため息を吐き出した。