「それなら、死体があることを隠してくれたらよかったのに」


今度はすがるような視線を辻本先生と森本先生へ送る空音。


「それも、きっと無理だったんだよ」


あたしは空音の手を握りしめてそう言った。


「あの生徒が死体があると言ってしまった時点で、みんなは混乱してた。たとえ辻本先生たちが死体はないと伝えても、きっと別の生徒が自分の目で確認しに行ってた。



そうなると、したいが そこにあるという事実に加えて、先生に嘘をつかれたというショックが重なる」


そうなると、生徒たちは何を信じて、誰についていけばいいかわからなくなるだろう。


混乱は混乱を招き、体育館から逃げ出す程度じゃ終わらなかったかもしれない。


空音はあたしの説明を聞いて俯いた。


「どうする? このまま体育館に残るか、それとも移動するか」


祐矢先輩が誰ともなくそう質問した。


「お前の答えはもう出てるんだろ?」


アラタ先輩が祐矢先輩を見てそう言った。


すると祐矢先輩は軽く肩をすくめた。


「まぁね。みんなバラバラに逃げてしまって集団でいるのは俺たちだけ。他に隠れている団体がいなければ、ウイルスに感染した生徒たちは必ず俺たちを狙って襲ってくる」


その言葉に、空音があたしの手を強く握りしめた。


7人以上で行動しているグループはまだ他にもあるかもしれない。


だけど、これ以上体育館に止まることは危険だ。


福田先生は体育館のすぐ外で殺されている。


感染者が体育館に生きた人間がいる事を知っている可能性もあった。


「行こう」


あたしはそう言ったのだった。