ロープで拘束された男子生徒は体育館倉庫の中に入れられ、その扉は固く閉ざされていた。


それでも倉庫の中からは時折笑い声が漏れてきて、その度に背筋に寒気が走った。


あたしたちはまだ正常な状態でいられているのだろうか?


ふと、そんな不安が胸をよぎった。


あの生徒と同様に、もう常識がなんなのかわからなくなっているんじゃないか。


だって、あたしと空音はすでに岡崎君を殺してしまっているんだ。


先輩たちはその話を聞いても、正当防衛だととらえてくれていた。


でも、これが現実世界だったらきっと違っていたに違いない。


空音はすぐに岡崎君を攻撃することはなかっただろうし、岡崎君も空音に見つかった時点で逃げていただろう。


そしてあたしも……空音が岡崎君を殺している様子をボーっと見ているはずがなかったんだ。


少しずつ、少しずつ、今までの日常が壊れていく音がする。


正常でいると思い込んでいるだけで、実はすでにあたしも空音も狂った感覚の中にいる。


そして、体育館内にいる生徒たちだって……。


仲間でいるように見せかけているが、本当は違う。


食料を独り占めしようとした者がいる時点で、本当はみんなひとりなんだ。


いつ殺されるかわからない恐怖。


殺される前に殺してやろうと考えている殺気。


そんなものたちで溢れていた。