猫の湯~きみと離れていなければ~


莉子はドサッと横のイスに荷物を放るように置くと、大きくため息をついてわたしを無言で見つめた。


その冷たい表情に、たった今まで陽向に見せていた可愛いらしい笑顔はかけらもない。


急変した莉子に何を聞けばいいのか、どんな顔をすればいいのかも分からない。


でもこれは冗談ではないと思う。

莉子が何かを言いたいのが伝わってくる。

それが決して友好的な言葉ではないことも。


何か怒らせてしまうようなことをしてしまったのかと考えても、思いつかない。



「…莉子? 」

「なに? 」


間髪入れずに返ってきた冷たい返事。

莉子は一瞬眉をゆがめて怪訝そうな顔をした。



――― 嫌悪


その感情以外の言葉がみつからない。

わたしは何も言えなくなって、膝の上に置いたカバンを見つめるしかなかった。


お互いが無言の時間が流れていく。


きっとほんの数分もないのだろうけど、見つめられたままの状態はかなりの緊張を感じる。