猫の湯~きみと離れていなければ~


「すぐに戻るからな」

「陽向っ、」


大きな歩幅で歩き始めた陽向を思わず呼び止めてしまった。


「どうして? …どうしてそんなに優しくするの? 」


笑顔で振り返った陽向は、笑顔のままきょとんとしている。


「わたし、陽向に酷いこと言ったんだよ? 普通なら怒るし嫌いになるのに…」

「あー、あれね。…俺は逆だと思ってたんだけど」


陽向は引き返してきてわたしの横に座ると、桜を見上げながら話しはじめた。


「鈴が俺を嫌ってんのかなっとは思ったけど」

「…そう思っているなら、なおさら…」


陽向はわたしを見ると微笑んできた。


「じゃあさ、もし鈴が俺を嫌っていたとしたら、俺も鈴を嫌わなきゃいけないのか? そんなわけないだろ?」


確かに。嫌われてるから嫌いにならなきゃいけないわけはないけど。


「でもわたしなら、嫌われてるって思う相手には近寄らないようにすると思う」

「俺もかな」

「答えになってないよ」

「だから言っただろ? 鈴の嘘は分かりやすいって」


陽向は一瞬だけ笑うと、勝ち誇った顔をして立ち上がった。


そして“待ってろよ”と念を押すように、もう1度わたしの頭をなでて、神社を出て行った。