猫の湯~きみと離れていなければ~



「カギが開いていたのを知りつつ、仁に『派手に壊しちまいな』と命令したのは女将だろう? しかもここは離れの優待客のみの豪華部屋、悔しいのは分か、」

「仕方ないねぇ。 ここは長さんに免じて許してやんな」


副会長が話し終わる前に遇は乙姫に言いっきった。

遇はわたしを助けにきたついでに、わざと壊したっぽい。
本当に龍宮城が嫌いなんだろうけど、請求は困るのね。

というか、仁の性格は遇ゆずりなんだと思う。



「鈴がわらわに勇気をくれた礼と思えば、扉の1枚や2枚なんぞ安いものじゃ、のう? 」


話しかけてきた乙姫に渡すまいと、遇はさらに強くわたしを抱きしめてきた。

ちょっと苦しい。
でもうれしい。


「自分のためならば無理なことも、鈴やこやつらのためにと思うと前向きになれてのぉ。わらわに気づかせてくれて感謝よのう」

「鈴、こんな女を元気づけることなんてないんだよ。あんたなんかずっと閉じこもっていればいいのさ」


食って掛かる遇を、乙姫はまた「オホホホ」と笑っている。


「くだらん争いはそこまでだ。帰るぞ」


副会長の言葉に遇はわたしをさっさと部屋から連れて出た。