猫の湯~きみと離れていなければ~



「鈴ちゃんっ! 会いたかったわぁ 」

「藤子おばちゃん、お久し、わぉ! 」


わたしがあいさつをする前に、その女性はわたしを思いきり抱きしめてきた。

懐かしい香りと居心地のいい腕の中、甘えていた頃の記憶が一瞬でよみがえり涙がにじんでくる。


この人は逢坂 藤子(おうさか ふじこ)

ママの大親友でさっき電話をしていた相手。


幼なじみの陽向のお母さんで、第2のママと呼んでもいいぐらい、わたしは産まれたときから我が子のように可愛がってもらっていた。


「純子はしょっちゅう遊びに来てるのに、鈴ちゃん全然来ないから寂しかったのよぉ」


ごめんなさいと謝りたいのだが、強い力で抱きしめられたままで声にはならず、わたしはうんうんとうなずくことしかできない。



「ますます可愛くなっちゃって。このままうちに連れて帰っちゃおうかしら? 」


そう言いながらわたしの顔を確認して、もう一度抱きしめなおしてきた藤子おばちゃんの言葉は、社交辞令でないのは分かっている。


わたしは懐かしさと“ありがとう”の気持ちを込めてぎゅうっと抱きしめ返した。