門の向こうには時代劇でみるような江戸っぽい町並みが広がっていた。

それだけでも驚きなのだけれど、わたしはもっと驚くことになった。


通りを行き交う者、お茶屋で休憩をしている者、お店の前に打ち水をする者、ほとんどの者が人間みたいに2本足で歩く猫だらけだった。


「ようこそ、ここがあの有名な猫町だ」


呆気に取られているわたしに、待ってくれていた副会長はひげと胸をピンと張って自慢気に紹介してきたけれど、こんな場所があるなんて聞いたことがない。


「…魑魅魍魎? 」

「…お前、言葉の選び方が間違っているぞ」



飽きれ顔の副会長はまたカランコロンと下駄を鳴らしながら歩きはじめ、わたしは置いて行かれないように慌ててついていった。


門からは大きな通りが真っ直ぐに伸び、通りに沿って様々なお店が並んでいる。
通りの突き当たり、一番奥には小高い山があり、ここからは赤い鳥居がかすかに見えた。


番傘屋、甘味処、桶屋、米屋、花売り…。
宿屋の2階の窓からは、大通りを眺めている猫の親子がいた。


行列ができて賑わっているのは焼き魚の屋台で、大きな団扇でパタパタと七輪を仰ぐハチマキ姿のサバトラ模様の店主が可愛いらしく、思わず手伝いたくなってしまう。