「美星さん…紫音の母親で…俺の叔母さんだけど……
紫音が中1の時に亡くなって、それを紫音は自分のせいだと…たぶん…今も思ってる」
「………………」

七聖がポツリポツリと言葉を選ぶように話し出したことは、俺が思ってもみなかった内容で、それに俺は言葉を発することが出来なかった。

「物心ついた時から母親の繰り返される入院と手術に、幼いながらにも疑問を持ってたんだろうな。
この時代、知りたいと思えばある程度知ることが出来る世の中で、小5の時に心無い者の言葉で“間違った真実”を突きつけられて、それに支配された紫音は変わった。

その間違った真実に、自分が生まれてきたことを罪と思い、幸せを望んではいけない……泣くことも、傷つくことも許されない……と心を凍らせた。

自分が望むことで、大切なものを失うことを恐れたんだ。

……周りがそのことに気づいた時は、もう手遅れで……誰の言葉(コエ)も届かなかった。

それでも真実はそうではないと何度も諭して、紫音も頭では理解したみたいだったけど、心はそれを拒んだ。
純粋さゆえに、いったん刻まれたものは深いところで根づいたんだと思う。

………叔母さんの前ではいつも笑ってたよ。

でも当然叔母さんはそんな紫音には気づいてたから、何度も…何度も伝え続けてた。

“愛してる”って…………

そんな時に、叔母さんがどうしても紫音と行きたい場所があるって言い出して……
自分の死期を悟っていたのか、亡くなる半年前に渡英したんだ。それが紫音が中学へ入学してすぐのこと……
行き先は叔母さんが叔父さんと出会ったイギリスのバイブリーで、未来に紫音と出会えると約束されたその場所もとても愛しいと伝えるために……

だけど、渡英の数日後に叔母さんの容態が急変して、日本には帰って来ることが出来なくなったんだ。

そのまま紫音は叔母さんの傍にいたけど…………
数ヶ月後の10月に叔母さんは帰らぬ人になって……

その後の紫音は見てられなかったそうだ。

生活もままならず、毎日のように両親の思い出の場所を訪れて、母を想う歌を歌ってたって……涙を流す代わりに、同じ歌を何度も………

しばらくはそんな状態が続いたけど、曾祖父さんと曾祖母さんの支えもあって、徐々に落ち着いてきた紫音は、去年の秋口に、そこから離れて日本へ戻って来ることが出来たんだけど………

やっぱり心までは戻ることなく、凍ったままでさ……

他人からの好意を無意識に、頑なに拒む姿は受け入れることを罪のように思ってんだろうな。

“一線”の本当の正体がそれだよ」