「紫音を救って欲しい」


そう言った七聖の顔は至って真剣なのに、その瞳はひどく揺れていて、今にも泣き出しそうだった。

「どういうこと?」

「………紫音は感情が動いた時に、歌うんだ。
嬉しい時、楽しい時……………哀しくて泣きたい時も……
そうすることで、精神をコントロールしてる」

手のひらに収まるカップの中のコーヒーの水面を見つめながら、何の前触れもなく、ゆっくりと話し始めた七聖。

それだけでは何を言わんとしているかなんてわからないけど…

「煌暉………昼間に俺が濁した話……紫音から聞いた方がいいって言ったことだけど……
紫音、
自分の母親のこと、どこまでお前に話してる?」
「どこまでって……他界してるってことぐらいしか聞いてねぇよ。
何か……俺もそれ以上は聞くことをためらったし…」
「そうか……」

一言ためらいがちにもらした七聖はそこで口をつぐんだ。


少しの間、何かを考えたあと、

「俺から話すべきことじゃないのかもしれないけど、煌暉には知っていてもらいたいから……
紫音のこと、本気で好きだと思ってくれてんだよな?」

七聖がカップから俺へと視線を移し、ぶつけてきた瞳の色は真剣そのもので、それに応えるように、俺も真剣な想いを伝えた。

「好きだよ。彼女以外いらないし、考えられない」
「お前の誠意を確認してばかりですまない。
……それでも紫音を託せる相手かどうか、見極めたいと思うのは俺のエゴなんだけどな……」

苦笑と嘲笑の入り交じった言葉に、これから七聖が話そうとしていることが、彼女によほどのことがあったのだと知らせてきて、俺自身に緊張が走った。