日が暮れてから1時間ほど経った頃、着信を知らせる音が鳴り響いた。

意外にも早かった煌暉からの電話。

だけど、待っている間の俺の心境は、逸る気持ちでいっぱいだった。


「切れたのか?」
「ああ。元々そういう関係なだけだし、全員切った」

煌暉のその返答を聞いた俺は、その思いを押し殺して、さらなる要求をする。

「今から俺ん家来れる?」
「そう言うと思った。そっち向かってたとこだし、あと10分ぐらいで行けるから」


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「来てもらって早々、何様なのを承知で聞くけど……ごねた女(ヤツ)とか、いなかったのか?」

俺は煌暉を自室へ迎え入れながら、念を押すように確認する。

「まぁ……多少は。でも、つき合ってもねぇし、ましてや好きだと思ったことなんか一度もねぇ、つって黙らせた」

そう言いながら、床へ敷かれたラグの上へ腰を下ろした煌暉。
向かい合うように俺も座り、煌暉が来る前にたてていたコーヒーをサーバーからカップへ注ぎ、差し出す。

「………………凄いな、お前。やっぱ紫音以外には容赦ねぇ……」

煌暉の言った言葉に、煌暉自身感情の無かった関係をまざまざと見せられ、今を本当に大事にしたいと思ってくれていることがうかがえた。

「スマホも変えたから」
「みたいだな。知らねぇ番号だったし………ムチャなこと言って、悪かったな」
「んな風に思ってねぇよ。かえって、変に気を使わずに切れたからスッキリしてる。
七聖にせっつかれて感謝こそすれ、謝られることなんか俺には何もねぇから。ありがとな」

そう言う煌暉の顔は、確かに吹っ切れた色を見せていて、

「で?七聖がそんな顔になってるワケは?」

俺の昼間に見せていた表情とは一変してることを見抜いた。

「煌暉………」
「ん?」
「俺と一緒に……明日からイギリスへ行ってくれないか?」
「は?何…急に……唐突すぎね?しかもイギリスって………
………彼女に何かあったのか?」

瞬時に思考を切り換えた煌暉が、心配気な表情を見せながら、俺の出した言葉へ当たり前のように紫音へ結びつけた。




「紫音を救って欲しい」