ふいにかけられた声に俺は振り返った。

「七聖……」

俺は今日、急に七聖に呼び出されていた。

「そろそろへこんでる頃かと思って」

そう言いながら七聖はカウンター席に座る俺の横へと腰を下ろした。
その手にはこの場へ来る前に買ったと思われるアイスコーヒーの入ったテイクアウトカップが持たれていて、それを口にしたあと続けられた言葉。


「お前、彼女いるんだってな。紫音が言ってたよ」


そう言った七聖の口調は軽い感じなのに、目は当然のように笑ってはいない。
その言葉に呼び出された本当の理由を俺は悟った。

「ごめん……」
「その“ごめん”は肯定ってこと?」
「まさか、違う。…………誤解を招くようなことになってて……」
「そう。誤解。
俺は前の煌暉を知ってるからわかるけど、紫音にはわからないよ。
事実、今連絡取れてないんだろ?」

七聖が出した彼女の名前に切なさが増してくる。

「あぁ………
1週間………自業自得だけど……気が変になりそう」
「ハッ 言うね。
まぁ完全誤解中の紫音だけど……
もう一つ、連絡の取れないワケ、教えてやろうか?」
「!!?」
「お前にとったらさらに酷なことだけどな。
紫音は今イギリスだよ。曾祖父さんと、曾祖母さんの所へ行ってる」
「……………」
「夏休み初日から。
2週間の予定だったけど、もう1週間滞在期間延ばすって、今朝話した。

余計な嫉妬は迷惑だから先に言っておくけど、別に俺に連絡が来たわけじゃないから。
俺の母さんと来週末約束してたみたいで、その断りのついでに家電で少し話しただけ。
その家電の理由は、お前もよく知ってると思うけど、紫音にとっての携帯電話はその必要性が皆無に近いことで、おそらくイギリスには持って行ってないだろうな」

俺のあからさまに変わるであろう態度を予測して、先に丁寧に細かな説明付きで牽制した七聖。

「それにしても、……お前の様子からして、渡英のこと聞いてなかったみたいだけど、そんな話無かったわけ?」
「話って……」

そう言われて、終業式数日前のある日の帰り道での会話を思い出した。