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「紫音、本当に空港まで送らなくてもいいのか?」
『大丈夫だよ。いつものことだし……どうして?』

私が度々している渡英のことなのに、今回は珍しくそんなことを聞いてきたパパが不思議で、私は思ったことをそのまま口に出した。

「いや……」

また珍しく口ごもったパパ。

『パパ?』
「……気のせいならいいんだが、……紫音、何かあったのか?」
『え?……どうして?何もないよ』

私はパパの質問に本当は驚いていたことを隠して、悟られないようにそう返事した。

「……ならいいんだ」


"ごめんね、パパ。いつもの私に戻って帰ってくるから……ごめんね"


ママのことがあってから、私をそれまで以上に気にかけてくれているパパ。

私は胸の内でつぶやき、まだ心配そうに私の様子をうかがうパパへと笑顔を向けた。

『パパいつもありがとう。気にしてくれて嬉しい。でも本当に何もないから。ね?』
「そうか。まぁ…年頃の紫音の相談は正直妬けるけど、パパで良ければいつでも聞くからな」
『うん。その時はまた聞いてね』

その言葉に、フッと目を細め微笑んだパパ。

『行ってきます』

それを聞いたパパはいつもの挨拶を私の頭に落とし、

「気をつけてな。お曾祖父さんとお曾祖母さんによろしく言っておいてくれ。行ってらっしゃい」

と私を送り出してくれた。

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マンションの前に待たせていたタクシーに荷物を乗せ、続けて私を乗せたタクシーは目的の地へと走り出した。

その流れゆく景色のなか、車上に広がる空を車窓から見上げた私は、そこにあった眩しすぎる光に目を閉じると、もう一つの光からも目をそらしてそれを手放した。




"何も変わってない。今までと同じ"




それを機に、私の中にある薄い膜だったものを完全なものへとするため、私は自分に暗示をかけてそれを変化させた……