「ただいま〜〜〜♪」


そこへいつにも増してご機嫌な様子で帰宅した母さんの声が、俺がいるリビングへと響いた。


「お帰り。
何?超機嫌いいじゃん。いいことでもあったわけ?」
「フフーンッ♪まぁね♪
でも今はまだヒ・ミ・ツ。落としてないからね」
「何それ」

全然意図が掴めない言い方をした母さんにまた溜息がもれた。

「ハァ……楽しそうでいいな」
「楽しいわよ〜♪って、どうしたの?」

ダイニングの椅子へ鞄を置きながら、言葉尻の変わった母さんがマジマジと俺の顔を見てくるから、

「何が?」
「何が?って……そんな切なそうな顔しちゃって。しかもスマホ握り締めてるし」

母さんにそう言われて手元へ視線を落とせば、ギュッとそれを握り締めてる手が俺の目に映った。
無意識のうちに力が入っていたことに、また胸の内で溜息がもれる。

「届かない想い。……違うわね…届けられない想いかしら」
「!!」

その言葉に驚き、俺は落としていた視線を上げて、母さんを凝視した。

「今の煌暉を見て、何となくそう思った。
……悩むことは悪いことじゃないわ。
でも、時には自分を認めて、今と未来を信じてみたら?」
「んな簡単なことじゃねぇよ」
「そうかしら。今の煌暉の方が前の煌暉よりも何倍も素敵に見えるけど」

母さんが目元をゆるく細め、口元には微笑みを作りそう言った。
どうしようもなかった以前のことは、何も聞かれたことはないし、言われたこともない。
たけど、俺を真っ直ぐに見つめてくるその瞳は、俺が今、何に囚われているのかを見透かしているようだった。