「一(にのまえ)」

担任こと仙内柊一(せんないしゅういち)。

通称“仙ちゃん”が俺の姿を確認するや否や、俺の名前を呼んだ。

瞬間、仙ちゃんの呆れたように変わった表情が再び俺の目に映り、仙ちゃんが何を言いたいのかがわかった。


「……………」


呼ばれた俺はガタンッと椅子から立ち上がり、仙ちゃんの前へと行く。
その目の前へ立つと、仙ちゃんの手元にあった出席簿の上にはやっぱりネクタイがあり、

「言い訳はいらん。それよりも自重することを覚えてくれ。
ほら、行った行った。席につけ」

仙ちゃんがあしらうように手で空を切りながら、俺にネクタイを押し付けてきた。

「仙ちゃん…サンキュ」

俺が苦笑で言うと、仙ちゃんも苦笑を返してきた。

俺は受け取ったネクタイを締めながら席に戻ると、これまた苦笑の七聖が出迎えていて、

「まさかの見逃し?」
「かえって怖いわ」

仙ちゃんの意外な対応に、二人して驚いた。

どこまでわかっているのか、何も聞いてこないし、呼び出しがあったわけでもない。

何か意図するものがあるのか…

「それにしても、一発で煌暉のネクタイって見破るとか、お前、どんだけ有名なの?
その節操の無さが、先生達の頭の中にインプットされてるとか……マジ無いし。
けど、今の対応には驚いたな……そろそろ見放されたんじゃね?
つか、あんまり仙ちゃんを困らせんなよな。煌暉に対しての言い訳考えすぎて、仙ちゃんのが先にハゲそうなんだけど。
イケメンのハゲとか見たくねぇわ〜」
「俺はハゲねぇけどな」
「お前…マジ、ハゲろ」

俺に“うぜぇ”とも付け加えたそうな、シラッとした口調で七聖が呆れ果てた顔を見せた。