俺は今まさに起こっていることが信じられず、目を見張った。
彼女の隠しもしない好意がひしひしと伝わってきて、あまりにもその急速な展開に気持ちが落ち着かない。
俺を少し上目使いに見てくる表情からも読み取れたそれは、期待した以上のもの。

『……質問されることを期待してたんだなって……
恥ずかしくもなりました』

そう言って伏せられた瞼。長いまつ毛が作り出した影と少し色づいた頬が俺を誘うかのように心を揺さぶってくる。

「月瀬さん…」
『はい』

だけど、瞼を持ち上げた彼女の真っ直ぐな視線に見つめられて俺はハッとなった。


"このままじゃダメだ"


絡んだ視線にその思いが頭に過る。

過去と決別出来ていない俺の現状が、その先に続くはずだった言葉を制止していた。


"好きだよ"


それが別の言葉となって俺の口から紡がれる。

「そう思ってくれて嬉しい。
ぶっちゃけると、用事が何なのかすげぇ気になった。
でも月瀬さんに聞く前に……七聖が教えてくれたんだよね」
『七聖くん?』
「はっきりとは知らない口振りだったけど、その日の朝の七聖の母さんの様子で大方わかったんだろうな。
だから自己解決してて、ごめんな」
『じゃあ何の用事だったかも?』
「ピアノ奏者の依頼だよな」
『七聖くんに聞いたんですよね?』
「あぁ……うん」
『他に何か聞きました?』
「他って…」

彼女の口調がだんだんと俺を尋問するように変わって、顔は赤みを帯びてくる。


"何かまずいこと言った?"


と思ったけど、彼女の潤んだ瞳を見て彼女が恥ずかしがっていることがわかった。

『七聖くん余計なこと言ってませんでしたか?』

その様子がもしかして変装のことを気にしてるのかと思い、

「大丈夫だよ。こっそり見に行ったりはしてねぇから」
『!!』

心配していたことを言い当てられて驚いたのか目が丸くなっている。

『どうしてまたわかるんですか……』
「ん?まっ赤になってて可愛いかったからかな」
『……からかわないで下さい』
「からかってないよ。マジで可愛い」


「お待たせしました」