「ハァ…………マジでどこ置いた?」

俺は机に肘をつき、拳で頬を支えながら思考を巡らす。
昨日、屋上での光景を見てから、自分がネクタイをしていないことに気づき、思い当たる場所へと行った。
でも、そこにあるはずの物は無く、今に至っている。

「あん時までは締めてたよな…」

俺はその時のことを思い出しながら、無意識にYシャツの襟元を掴んだ。


"ヤバいな…何本めだっけ………"


記憶を辿り、指折り数えた数は、4本め。


"コレクターかよ"


正当な理由での紛失は1本。
あとの2本は…まぁ、何だ…、俗に言う不純異性交遊なわけで…

うすうす担任は気づいているようだし…

そんなことを考えて、眉間にしわが寄るのが自分でもわかった。
余程仏頂面なのか、今日は誰も声をかけてはこない。


自分の容姿は自覚している。
そして立場も。


そこそこ整った顔に、高身長。
わりと気軽に話せる性格が、良くも悪くも女からは好まれていて、”彼女“という立場の者はいないが、切れたことはなく了承の上での関係。

その先に踏み込むつもりも、ましてや踏み込ませるつもりもない俺には好都合なわけで……にしてもだ…


今回はマズい。


場所が場所なだけに、もしも思い当たった場所でそれを見つけたのが教師だとすると………

ますます寄ったであろう眉間のしわ。

そんな俺を見かねたのか、

「何、煌暉(こうき)。またタイ紛失?」

目の前に座っていた七聖(ななせ)が、俺の襟元を見ながら楽しそうに指摘してきた。


「……………」


少し目線を上げ見ると、からかうような顔で七聖は俺と視線を合わせてくる。
それに反応出来ないぐらい余裕のない俺。

「マジ、ヤバいわ……ハァ」

つい溜息が漏れた。

「お前、……何本め?」
「1………+3?」

七聖の質問に俺は苦笑しながら答えた。

「……何で疑問形…つか、どこで?」
「………中央棟?」
「学校かよ………の、どこ?」
「………図書室?」
「……………、お前がさっきから疑問形で返す意味がわかんねぇ」

俺のふざけた答え方に呆れた口調の七聖。

「人の出入りなめてんの?…それか、そういう趣味とか?」
「んなワケねぇし。…昨日は誰も居なかったんだよ」
「珍しいことあるんだ?」

七聖の言うように、中央棟の図書室が無人というのはほとんどない。

学校にしては珍しく、充実した本の数と種類、多方面の資料まで多く、その上自由に使えるPCの設置に、個人スペースまである。

その辺のインターネットカフェや図書館と比べても、ひけをとらないかもしれない、そんな場所だった。

「それにしても…そこは外すべきじゃね?何で図書室…」
「何となく?」

悪びれもなくそう言った俺に、

「ハゲろ」

七聖はうんざりした顔で吐き捨てた。


そんな会話をしていると教室の前のドアが開き、担任が入ってくる姿が俺の目に映った。