「困ってる内容なんか欠片も知らないのに、俺のことを心配してくれたのが嬉しくて、困ってたことが一瞬ぶっ飛んだ」
「結局は何に困ってんの?」
「母さん絡みの仕事。
新規の仕事が他のブランドとのコラボで…女が絡む。今日はそのミーティング。
男側のモデルは俺でほぼ決まってるけど、まだ返事はしてねぇ。で…………女側のモデルがちょっとな……何人か候補がいんだけど、前にたまたま現場が一緒だったモデルのコがその中にいてて………」
「あぁ……アプローチがしつこいのか」
「……………………」

さっきとは打って変わって、うんざりした表情を浮かべた煌暉。

「紫音が絡んでないし、仕事仲間というこもとあって冷酷になれない?」
「冷酷?」
「気づいてないのか。面倒ぐらいにしか思ってないわけね……
なら、紫音を連れて行けば?丸く収まるよ」
「は!?んなこと出来るかよ。業界に引き込まれんのわかりきってんじゃん。これ以上心配の種増やすかっての。
それはお前だって……」
「冗談だよ」


"こいつも案外鈍いのか……
二人一緒にいる姿は端から見れば相思相愛にしか見えねぇのに。
紫音の無自覚は今さらだけど、煌暉までとはな……
紫音相手に“たらしセンサー”もマヒしたってことか"


「いや待てよ。仮に彼女がモデルになったとして……
事務所が同じなら仕事も一緒?
俺みてぇにバイト感覚ならそんな時間も拘束されることねぇし……傍にいれる時間が増える?
いやいや待て俺。みすみす他のヤロウがつけ入る隙を自分で作ってどぅすんだ。さっきも自分で拒否ったじゃん…いやでも……
んなーーーーーーっ」

ブツブツと心の声がだだ漏れで、頭を抱えて葛藤する煌暉の姿に嘆息する。それでも17才という年相応の男子高校生らしさが見えて俺は嬉しくなった。


"俺、こいつのこと心配してたんだな"


という思いが頭の中に過った。



煌暉の“一線”。



それがほどかれたことが垣間見えて、俺の口元には自然と笑みが刻まれた。