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「今日も紫音と帰るのか?」
「いや……今日は仕事」
「あぁモデルの?」
「……まぁな」

そう返答した煌暉の微妙な変化に、

「何?何か困ってんのか?」

俺がそう聞けば、

「すげぇな、七聖。…彼女にも驚いたけど」
「そりゃ付き合い長いし、口調と態度の変化には気づくだろ。俺はともかく、日も浅い付き合いの紫音にも気づかれて、想いが加速しての言葉だったわけだ。さっきのは」

煌暉からは何か明瞭な言葉も無かったのに、俺が的確な分析をしたようで、

「怖ぇーわ。何も言ってねぇのに、そこまでわかるって……」

俺を人以外の物でも見るような目を向けてくる。

「俺からしてみれば、わかりやすいけどな。二人共……
紫音も自分のことには鈍感でも、煌暉のそういうとこには敏感なんじゃないの?」
「………あぁ、マジで驚いたし、嬉しくなった」

紫音のことを思い出している煌暉の表情は、男の俺から見ても恥ずかしくなるぐらい甘さが滲んでいる。

「俺は煌暉の今の顔に驚いてるけどな」
「え?」
「いや、何でもない。続けて」

聞き返されたことを遮り、俺は先を促した。

「七聖に今言った以前の会話で……
今日の帰りのことを言う前に言い当てられた」
「へぇ。やるね、紫音」

「いつもは前日の早いうちに次の日どうするか決めてんだけど、昨日は何となく言いそびれてっていうか、正直仕事よりも一緒にいたいとか考えてたから、別れ際のギリギリまでその話になんなくて……

それがいきなり“明日はお仕事ですか?そのお仕事で何か困ってることでも?”って聞かれた。
そのあとにも“私が言うのもおこがましいですが、無理しないで下さいね。お仕事も大事ですが、身体が資本ですし、一先輩あってこそのお仕事内容ですよね”って……
瞬殺された」

その煌暉の最後の言葉の口調に混ざったのは、紫音への苦しいほどに好きなんだという想い。

吐息までもが切なさで覆われている。