「七聖、昨日彼女と何話してたんだよ?それに何であそこにいた?」

登校してくるや否や挨拶もそっちのけで、いきなりの本題を俺に聞いてきた煌暉に溜息が出た。

「ハァ………おはよう、煌暉」
「おぅ。で?」
「………………」
「…………おはようございます」

俺の無言の指摘に正しい言葉で言い直した煌暉。

「素直だな」
「うっせ」
「仕方ないな……
それはお前が遅れるって騒いでたから。そのことを伝えようかと」
「頼んでねぇし」
「だな。でも行ってよかったと思ってる」
「は?何だよそれ。また男に声かけられてたとか?」


"ホントこいつって紫音のことになると勘が働くよな"


「半分正解。かけてたのは女。で、お前に言い寄ってた3年の女子だよ」

俺の言ったことに、途端に煌暉の表情が変わり、鋭くなった目。

「心配すんなって。紫音に骨抜きにされてたから」
「!?」
「やっぱり紫音は凄いよ。すっかり仲良くなってたし、だからお前はジャマすんなよ」

紫音が関わると人が変わったみたいに甘くもなれば苦くもなる。後者にいたっては、冷酷さを隠しもせず浮き彫りにさせていることが、今の様子と昨日の女子達が漏らしていた言葉で簡単に結論づけることが出来た。

でもこれでまだ想いが言えてないとかあり得ない。

俺が初めて紫音に近づくことを認めた男なのに……


"何やってんだか…"


まぁ多分…今までの自分が切り離せてないんだろうな。
少しずつケリはつけていってるんだろうけど……
まだ完全にはほど遠いか……


「忠告してたことは褒めてやるよ」
「……………」

さっきの俺が言ったことに何か考えているのか、“心ここにあらず”で険しい表情をしている。

「煌暉」

俺がハッキリとした口調で名前を呼べば、煌暉のハッとした顔が俺を見てきた。

「あぁ……うん」
「あぁ……うん。って………まぁいいけど。
紫音は大丈夫だよ。彼女の魅力を前に太刀打ち出来るヤツは早々いないから。
ましてや煌暉が絡んでるし、そこは最強だと俺は判断するけど」

俺が立て続けにめずらしく褒めたことが意外だったのか、その表情をゆるませて、

「だといいけど……」

照れくさいのか、横に流された煌暉の視線。
それがそのままその先にあった中等部の校舎を見つめたことが切なげに変わった瞳の色でわかった。

それを追うように俺も視線を動かした。

日の光が校舎の窓ガラスに反射していて、俺は思わず目を細めた。