『そういえば、どうしてここに?』

私が一先輩と待ち合わせている場所に現れた七聖くん。
ふと思ったことを聞いてみた。

「あぁ…煌暉が遅れるって騒いでたから」

七聖くんはその時のことを思い出したのか、クツクツと笑い出した。

『先輩に頼まれたの?』
「いや、あいつが俺に頼むわけないじゃん」
『?』
「電話かかってきてない?それかメール」

そう言われて私は鞄からスマホを取り出した。

『やだ。電源切ってたこと忘れてた』

焦った私の言葉に、

「あいつも今頃相当焦ってんじゃね?
担任に呼び出しくらってたから、来るのはもう少しあとかもな」

一先輩の様子を今度は想像してるのか、また笑い出した七聖くんを見て、


"七聖くんて笑い上戸だったっけ?"


なんて思っていると、ONになったスマホが鳴り出した。
着信表示されているのは、


─ 一先輩 ─

「出たら?煌暉だろ」

七聖くんが当たり前のように言う。
そう促されて、通話ボタンを押して私は応答した。

『はい』
“「良かった。つながった」”

安堵したような一先輩の声が耳へと響いてきた。

『ごめんなさい。電源を切ってました』
“「そっか。何かあったのかと思って焦った」”
『何もないので大丈夫です。心配かけてしまってごめんなさい』
“「ん。声聞いて安心した。
俺こそごめんな。待ち合わせしてんのに」”
『気にしないで下さい。待ってますので。
先生の用事なんですよね?』
“「え?何で知ってんの?」”
『七聖くんに聞きました』
“「七聖?」”
『はい』
“「もしかしてそこにいんの?」」”
『はい』
“「……………」”

急に無言になった一先輩。

『………先輩?』
“「すぐ行く」”


プツッ


一先輩が一言漏らしたあと、突然切れた通話。
私がそのことに放心していると、

「すぐ行くって?」

七聖くんが笑いを堪(こら)えながら一先輩の言葉を繰り返した。

『うん』

私は以心伝心のような二人に驚いた。

「アハハッ わかりやすいね。あいつ」
『え?』

堪えていた笑いを声と顔に出してそう言った七聖くんは
、その顔を今度は微笑みに変えて私を見つめてきた。

そしてその目元にも優しさを滲ませて、

「じゃあ俺は退散すっかな。あれこれ聞かれるの面倒だし」
『帰っちゃうの?』
「………紫音、それ言う相手は俺じゃないだろ」
『……………』
「あ、口止め。
さっきのお姉さん方のことは煌暉には内緒な。俺から話すから」

人差し指を唇の前に立てた七聖くんに、


"どうして?"


と思ったけど、七聖くんが二人の先輩のことを知ってそうだったし、一先輩とも関係がある人達なのかと考えて、私は黙ってそれに頷いた。