「あ…ごめん。嬉しくて、ついいろんなこと考えてた」
『嬉しい?』
「ん。俺のことそんな風に言ってくれたこと。俺自身をちゃんと見てくれてんのかなって……」
『それなら先輩だって同じじゃないですか。私に対して普通に接してくれてますよね?』


"普通?"


『私、みんなから…とくに男のコ達から避けられてますから』

そう言った彼女の表情が寂しそうに曇った。


"避けられてるって……高嶺の花に近づけないだけじゃ…
そんな勘違いをずっと?……"


『あ…でも先輩と知り合ってからはちょっと違うかな』
「え?俺?」
『はい。まぁ中等部では相変わらずですけど、高等部の先輩方が話しかけてきてくれるようになりました』


少し照れたように笑った彼女。


"は!?……ちょっと待って。初耳なんだけど…
え?高等部の生徒から話しかけられてんの?"


『先輩のおかげですね』

呆然とする俺には気づかす、フフッと嬉しそうに微笑んでくる。

「それって男?」

嫉妬と警戒から出た言葉なのに、

『え?はい。
でもたまに女の先輩も話しかけてくれますよ』

ますます嬉しそうになった彼女の顔。


"おかげとかじゃねぇし。つか俺が相手で自分でもイケんじゃね?とか思ってのことだろ"


「マジか……」

俺がボソッとつぶやくと、

『どうかしました?』

俺の焦りなどにはやっぱり全く気づく様子もなく、キョトンとした彼女。

「何て話しかけられんの?」
『挨拶が多いですけど、先輩との関係を聞かれたり…
あ、でもちゃんいい先輩ですってお答えしてますので大丈夫です。ご迷惑になるようなことは言ってませんので』


"いい先輩…
迷惑になることは言ってない…"


俺は複雑な気持ちになって、今度は頭が痛くなってきた。

二人で過ごしていることの意味を、ただの先輩後輩だと思っている彼女に俺の好意が届いていないとわかって落胆する。
マジで鈍すぎる彼女に、

「いい先輩でも、迷惑でもないけどな」

と意味深さを込めて言った。


がんじがらめになる以前の問題まで突きつけられて、俺は嘆息を胸の内でつくことになった。