「あぁ、いいんだ」


俺はそれだけ言って、スマホの電源を落とした。


『そうですか』

彼女もそれだけ言うと、俺に向けていた視線を前方へ向けて手元の飲み物を口に運んだ。ストローをくわえるために少し開かれた口が今度はそれを含む。だからか、一言で済まされた会話になぜか腹立たしさが芽生えて、俺がその電話に出ない理由を聞いてこなかった彼女に、

「月瀬さんて、あんまこういうの気になんない?」

と思わず口走ってしまった。

『こういうの?』
「……俺が電話に出ないこと…何で?って思わねぇの?」
『だってプライバシーですよね?』
「俺は気にして欲しいんだけど」

つい口調にイラつきが混じった。

『それはやきもちを妬いた方がいいということですか?』

「え?」

彼女の言ったことに俺は気づかされた。
今芽生えていたものは、ただ単に彼女に嫉妬して欲しかったんだと…

『じゃあ聞いても?』
「あ………いや…」
『フフッ 今困ってます?』
「………………」

俺は聞かれても答えにくいことを何なく指摘されて、後先を考えずに発言していたことに自分で呆れた。

『大丈夫ですよ。誰だって言えないことの一つや二つはあるものです』

彼女はそう言うと、目元と口元を少しゆるませて瞼を伏せた。
その姿があまりにも儚く見えて、一瞬彼女がこのまま消えてしまうのではないかと俺に思わせた。

だけどすぐ次に彼女が見せた表情に、今感じていたことが頭の片隅に追いやられる。


『でも本当は気になりますよ』


ベッと舌先を少し出しておどけた彼女。
それを目の当たりにして、


"頼むからそういうのは俺の前だけにして下さい"


その仕草にメロメロにされた俺の感情が、頭の片隅にあったものを完全に上書きした。


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