寄り道の間中ずっと感じていたこと。

一先輩と一緒にいると、自分の心があたたかくなる気がする。

パパや碧、七聖くんに感じるものとは違う。

冷えきっていたそこに、スッと光が射し込むような…そんな感覚。


「紫音さん?どうかなさいました?」

私の食事をとる手が止まっていたことに気づき、榊さんがカウンターキッチンの奥から声をかけてきた。

榊美登里(さかきみどり)さん。

数年前からお世話になっているハウスキーパーさん。
2年程空いた期間はあったけど、半年前からまたここに来てくれている。
ママとそう年令も変わらないくらいの女性(ヒト)。

『ううん。ちょっと考え事してて…
ごめんなさい。せっかくのお料理が冷めちゃうね』
「いえ、そうではなくて。
何か楽しいことでも思い出されてました?」

榊さんの予期せぬ言葉に私は目を見張った。

「すごく良い表情をされてましたよ」
『へ?』
「好きな人のことでもお考えに?」
『………好きな……人?』

そう言われて頭の中に一先輩の顔が浮かんできた。
その瞬間、頬に集まってきた熱。

「当たりですか?」

優しく微笑まれて、今度は身体までもが熱に染まる気がした。

『そんな……好きって……一週間も経ってないのに……』
「あら、人を好きになるのに日数や時間は関係ないですよ?
その人のことを四六時中考えたり、一緒にいたいと思うのならなおのことです」
『………………』


笑った顔。
優しい眼差し。
話す声。

そして同じ時間を過ごすことの楽しさ。
離れてしまう時の寂しさに、もう少し一緒にいたいと思う切なさ。


出会ったばかりで、まともに話したのだって今日で2回めなのに…

でも不思議と距離なんて感じなくて…傍にいてくれることに感じるのは“安心感”。


『好き……なのかな…?』
「恋に思い悩みはつきものですよ。
でも今、紫音さんにそんな顔をさせてしまうってことは、とても素敵な方なんでしょうね。フフッ』

榊さんはそう言って、もう一度優しく微笑んだ。


**