「月瀬さんはまだブレザー?」
『はい。たぶん夏服に変わる時まではこのままだと思います』
「それってけっこう先じゃね?暑くないの?」

彼女が言った夏服に完全に変わるのにはまだ1ヶ月弱あって、俺は単純に思った疑問を口にした。

『体質なのか、あまり暑さを感じないので。
…周りから見ると暑苦しいかもしれませんが』

意外な返答とそれを申し訳なく思うのか、また眉尻を下げた彼女。

「へぇ。うらやましい体質だな」
『んー…どうでしょう。普通に夏は暑いですよ?』

そしてまた変わった表情が、今度は俺に対してなのか自分に対してなのか、疑問を投げかけるような不思議そうな顔になってから口元にゆるく弧を描かせた。

本当によく変わる表情が俺をいっぱいにする。


"可愛い"


無防備なまでの彼女の素を見て、今まで自分の周りでは感じることがなかったときめきに胸が締めつけられた。

「ハハッ 月瀬さんて不思議な感じがする」
『不思議?…ですか?』
「そっ。ある意味俺の“ツボ”だよ」
『…ツボ?』
「ん。ツボ」
『………そぉなんですね』

俺が出した“ツボ”の言葉に何か考えるような仕草を見せたあとそう呟いた彼女。だけどフフッと口元が笑っていたことが、俺が言った本当の意味はわかっていないことを俺に伝えてきていた。

そんな彼女を見て、


"これ…慣れんのか……?"


と切なさまでこみ上げてきた。




「じゃあ行こっか?」

しばらくここにどどまって話をしていたことが、下校する生徒達の視線を集めていて、そのことに気づいた俺はそう切り出すと、

『はい。よろしくお願いします』

彼女の笑顔つきの声が返ってきた。


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