煌暉がこんなに不器用な男だとは思わなかった。

中学の時からあれだけ女を取っ替え引っ替えしてたのに…

さすがにこの学校では制限してたみたいだが…
他校を含めると、いったい何人いるんだ?…

それなのに…

紫音と出会った煌暉は、
本来の姿になったのかもしれない。


自分に近づく女をどこか信じきれないのか、自分の立場や容姿を疎ましく思っている煌暉。

接する態度でさえその性格を偽り、優しさなんて見せない。


“その時だけ楽しめればそれでいい”


と言っていた。

それなのに今の煌暉は今までの女に目もくれない。
それ以外の女からの視線にも気づかない。

本当に同一人物かと疑うほどの変わりようだった。


その出会いは数日前。
一瞬にして紫音に落ちた煌暉。


最初は紫音の容姿に興味があるだけかと思った。
親友に対しての感想にしては随分酷い言い方かもしれないが、紫音を見守っていた俺としては、紫音をそういったヤツらから少しでも遠ざけたかったから…

だけど、煌暉の様子がいつもとは違うことに気づいて、なおさら一目惚れでもしたのかと思い直したけど…


図書室での机に向かって並んで座る二人の姿。
それを目にした時、二人の纏うものに身体が震えた。

一目惚れなんて、そんな言葉では表現出来ないと感じた。

もうすでに、変わりゆく季節を幾度となく一緒に過ごしてきたかのような二人。

そこにあったのは、そんな情景。


“お互いを想い合う恋人同士の図”


その場にいた誰もがそう思っただろう。
だからこそ、その翌日二人への好奇に満ちた噂は囁かれることはなかった。


煌暉はそれに対して何か妙な方向へ思考が行ってたみたいだが…

まっ、今頃はそれも別のことで頭がいっぱいだろうがな…

このまま何事も無ければいいが…


認めてくれるヤツばっかじゃねぇぞ煌暉。

お前が傍らに立ったことで紫音の持つ"一線"に隙が見え始めてる。
まだ極わずかで気づくヤツは多くはないだろうが…

中等部は…煌暉相手に張り合うヤツはいないだろう。
でもこっち側のヤロウには油断できないな。

辛うじて、学校生活での関わりがほぼ無いことだけが唯一の救いか…

今回みたいに紫音のために動くことには何のためらいもないのに…結果的に煌暉のためにもなっているのが何か気に入らねぇ…


それでも、


託してみたい。


一線を越えた煌暉なら……

溶かせるだろうか…

紫音の持つもう一つの…
幾重にも積もったものを…


幼い頃から妹のように大切にしてきた紫音。


血のつながりでは届くことが出来ない場所にあるものへ、お前という光なら届くことが出来るかもしれない。


真の彼女にまた会えるなら…
俺はお前のためにだって動くことも厭わない。





───二人の本当の姿が見たい。