「ハァ……」

日に日に増える溜息…
休み明けの今日もまた、俺は中等部の校舎を見下ろして、朝から何度めかとなる溜息をついていた。

「ハァ…………」

「煌暉、マジうざいから」

七聖が辛辣な言葉を吐きつつも、俺を見るその目は憐れみみの色を宿している。

「………………」

あの図書室で彼女と同じ時間を過ごした日から丸3日。
俺の幸せだった気持ちは一変して、切なさでおおわれていた。
意外にもその翌日の周りの反応は、何ら変わりのない日常で…前日にあった噂も、彼女との時間も、全てが夢だったのか?と思わせるほど、本当に静かで何も無い。

学校で彼女の姿を見かけることも無ければ、噂さえ囁かれないことが、かえって俺を追いつめていた。

今はあの時に次の予定を確認していなかった自分に呆れ果てて、気分は最悪だった。

チラッと一瞬七聖の方を見やり、また窓の外へその視線を向けようとした時、
そんな俺に見かねた七聖がスマホの画面を見つめたまま、

「お前には協力しないって言ったけど………伝言…」
「えっ!?」

思わず大きな声で反応した俺。

「その顔……わかりやすすぎてムカつく」


"ムカつくって…その言い方に期待するなって方がムリだろ…"


フッと息を吐いた七聖が、今度は冷やかすような目で俺を見てきた。

「今日の迎え、」
「?」
「頼んでないって」
「…………」
「予定が無ければ…」
"おいおい…何で片言…嫌がらせか?"
「クククッ」
"笑うな"

七聖が一言ずつ話すのにイラッとして、自分の眉間にしわが寄ってくるのがわかる。
そんな俺を見て、さらに面白がるように続ける七聖。

「紫音の頼みだからさ」
「…………」
「俺、彼女が本当に可愛くて」
"だろうな。今まで隠してたんだし"
「だから甘いんだよ」
"いつまで引っぱるつもりだよ"
「あれ?もしかして怒ってる?」
「………怒ってねぇよ」
「でもイラついてるよな?」
「……………」

"何コイツ。すげぇ楽しそう"

「ハァ……仕方ない」
"何が!?"
「………………」
"黙るなよ"

七聖が言わんとしてることは何となく予想出来るけど…

切望する気持ちで俺は七聖を見つめた。

「そんな見つめられても…」
"……………"
「フッ」
"……………"
「……今日、寄り道しませんか?ってさ」

七聖の予想以上の言葉に、舞い上がった俺の感情(ココロ)。

「マジ!!!?」
「お前、あり得ないしな」
「ヤベぇ……超嬉しい」
「聞いてる?」
「え?」

七聖の言葉に歓喜していた俺は、聞こえていたけど、聞いていない。

「だから…誘われてんなって。俺の紫音に」
「!!!!」


"は?……今サラッと“俺の紫音”って言ったよな!!??"


「言っとくけど、今までみたいな扱いしたら殺すよ?」


"七聖って…もしかしなくても彼女が関わるとキャラ崩壊?…隠してた理由ってコレ!?"


「またどこかに飛んでるみたいだけど…マジだからな?わかってる?」

七聖がどす黒いオーラを纏ってニッコリ微笑んだ。

「お…おぅ」

もちろん遊ぶつもりなんてないけど、七聖の新たな一面をまた垣間見て気圧された俺の返事は勢いなんて無く……

「何?聞こえない」ん?

と首を傾げ、“了承しか受け付けません”といった目で俺を見据えてくるから、

「ああ。わかってる」

俺もそれに応えるべく、今度は強い口調で言い切った。